現実のDXプロジェクトの一歩目のお話
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2023年も企業のDX化の流れが続いています。DXで様々な仕組みがデジタル化していくとデータ量は膨大に増えいき、データ分析の重要度もますます上がっていくことでしょう。 そしてデータを活用したAIの事例もメディアで見ることが増えてきました。 ただし筆者は仕事を通じて、多くの企業はもっと前の段階でつまづいている、という風に感じます。 今回はDXプロジェクトの一歩目について、現場目線で語ろうと思います。
目次
日本のDXの現在地
本題に入る前に日本企業のDXの現在地について確認してみましょう。 IPA(独立行政法人情報推進機構)が2019年から定点観測している「DX推進指標」というDXの進捗具合を図るための統計があるのですが、2022年の結果を見ても目標地点はかなり遠い印象です。 資料を読み解くと、大企業では業務の一部デジタル化は始まっているものの、多くの中小企業ではデジタル化は始めたばかり、もしくは未着手というのが実態ではないでしょうか。
参照:DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2022年版)
成熟度レベルの数値についての説明 レベル0:未着手 レベル1:一部での散発的実施 レベル2:一部での戦略的実施 レベル3:全社戦略に基づく部門横断的推進 レベル4:全社戦略に基づく持続的実施 レベル5:グローバル市場におけるデジタル企業
DX推進のための政府の取り組み
日本企業のDX化の遅れは深刻です。 IMD(国際経営開発研究所)が発表しているデジタル競争力ランキングでは2022年時点で日本は27位です。2013年時点では20位なので、世界との差は広がっているわけです。 しかも指標の中の「デジタル/技術スキル」に関しては62位であり、将来の見通しも悪いです。 教育については5位と高い水準を維持しているものの、IT業界に反映されてこなかったということになります。
デジタル競争力ランキング 2022
そんななか、政府の取り組みをひとつ紹介します。 DXを進める中で、データ活用で重要な役割であるデータアナリスト、データサイエンティストの不足が予想されます。 政府はデータサイエンス・AIを理解する学生を年間25万人を輩出する目標を掲げ、教育改革に取り組んでいるようです。
参照:内閣府発表のAI戦略
デジタル社会の基礎知識(いわゆる「読み・書き・そろばん」的な素養)である「数理・データサイエンス・AI」に関する知識・技能、新たな社会の在り方や製品・サービスをデザインするために必要な基礎力など、持続可能な社会の創り手として必要な力を全ての国民が育み、社会のあらゆる分野で人材が活躍することを目指し、2025 年の実現を念頭に今後の教育に以下の目標を設定:
- 全ての高等学校卒業生が、「数理・データサイエンス・AI」に関する基礎的なリテラシーを習得。また、新たな社会の在り方や製品・サービスのデザイン等に向けた問題発見・解決学習の体験等を通じた創造性の涵養
- データサイエンス・AIを理解し、各専門分野で応用できる人材を育成(約 25万人/年)
- データサイエンス・AIを駆使してイノベーションを創出し、世界で活躍できるレベルの人材の発掘・育成(約 2,000 人/年、そのうちトップクラス約 100 人 /年)
- 数理・データサイエンス・AIを育むリカレント教育を多くの社会人(約 100万人/年)に実施(女性の社会参加を促進するリカレント教育を含む)
- 留学生がデータサイエンス・AIなどを学ぶ機会を促進
他にも政府はDXに使える様々な補助金を用意していますね。 ただし数が多すぎるので、改めてコムマーケティングがおすすめする補助金について、別の機会にまとめたいと思います。
現実のDXプロジェクトの一歩目
お待たせしました、本題に入ります。 筆者は通販事業のDXプロジェクトにいくつか従事してきたのですが、それを例にお話しします。 例えば通販事業の商品情報については下記のようなデータがあげられます。
商品情報の一例
- 仕入れなどに必要な情報
- 会計で必要な情報
- 物流で必要な情報
- 楽天やYahooショッピングなど、マーケットプレイスに出品するための情報
- 広告に必要な情報
これを見てどんなデジタル化が考えられるでしょうか? 通販システムは既にあるとして、他にデジタル化できる業務はたくさんあります。 下記は筆者が実際にデジタル化、自動化に携わった一例です。
- 取り寄せ品の発注の自動化
- アナログで管理していた発注業務を自動レポートで属人化を排し、在庫ロスを削減
- データフィード広告の出稿の自動化
- 在庫資産の評価方式を移動平均法に変えてリアルタイムに近い形で利益を把握
もし、通販システムがAmazonだったと仮定すると、商品のサイズや重量のデータをもって、ロボットによる倉庫での自動ピッキングに活かしているでしょう。 広告出稿も自動化されているし、商品の発注についても自動化目標があると聞いたことがあります。 ただし、ほとんどの会社はAmazonのように巨大な資金を持ち合わせていません。 ほとんどの業務をデジタル化する予算は無いわけです。 なのでDXプロジェクトの一歩目としては「何をデジタル化したら利益にインパクトを出せるのか」「何が一番生産性を上げるのか」ということをデジタル化に着手する際に検討するわけです。 在庫ロス・機会損失が多いのであればMD業務のデジタル化だし、お客様の再訪率が悪いのであれば訪れたくなるコンテンツだったり、自動でメルマガを送る仕組みだったり。 DXは経営者から見るとあくまでIT投資なので、まずはリターンのあるデジタル化を一歩目としては目指すと良いと思います。
DXのステップのおさらい
DXは体系化が進んでいます。一般的なDXのステップについて一度おさらいしましょう。
- デジタイゼーション:紙で管理していた顧客台帳をオンラインツールで行うなど、アナログデータのデジタル化
- デジタライゼーション:通販システムのような購買プロセスの一部オンライン化
- デジタルトランスフォーメーション:自動化がさらに進んだり、プロセス全体のデジタル化が進み、新しい価値が生まれる
前項の通販システムの筆者の事例ですと、「デジタライゼーション」の拡張ということで説明できるかと思います。 それが進んでいくとデジタルトランスフォーメーションの達成となります。 例えばAmazonは物流業務の自動化が進み、数万社を超える企業がFBA(販売事業者向けの商品の保管から配送までの代行サービス)を利用、さらにマーケットが拡大し、新しい価値が生まれているわけです。 Amazonを例に出すとハードルが高すぎてしまいますが、デジタルトランスフォーメーションの現実としては「DX推進指標」の結果が示す通り、多くの大企業でもデジタライゼーションで足踏みしている状況かと思います。
DXを担当するチームに必要なスキル
DXを担当するチームに必要なスキルとは、ひとことで言うとエンジニアリングのスキルとビジネス・マーケティングの理解です。 技術だけでもカバーするのは大変なのですが、DXを成功させるためには何ひとつ外せません。 もちろんひとりが全部把握しているわけではないので、チームで補完しあいながら、そして関係者からヒアリングして設計をしていきます。 また、前項の通販システムではほかにも注文データ、顧客データ、在庫データなどたくさんのデータが存在します。 複数のデータをうまくマッチングさせることが出来れば、ユーザを掘り起こす仕組み、アップセルを促す仕組み、運営者が楽になる自動化の仕組み、既存顧客の分析から新規顧客開拓などなど、サービスをスケールさせるための機能を開発することができます。 データに価値が生まれるとき、多くの場合、複数のデータを組み合わせることで起こります。 <顧客×注文⇒アップセル>、<顧客×カート⇒買い忘れの喚起>、<在庫×会計⇒在庫ロスの抑制>、といった具合です。 業務であればMD、カスタマーサポート、マーケティング、物流、経理などに部門は分かれるのですが、DXで価値を出すためには横断する必要があります。 なのでDXを担当するチームはエンジニアリングのスキルとビジネス・マーケティングの理解が重要なんです。 今回、通販システムを例にして説明してみましたが、筆者の経験だと他分野のサービス、例えば人材サービスでも同じことが言えました。
DXを邪魔するもの
筆者がDX案件の仕事で一番困るのは「私は関係ない」という考えです。 先ほどの商品データの例でもいろんな情報を集約して設計しているのがわかると思いますが、関係者の中には「私には関係無いから、その入力は必要無い」、みたいな意見が出てくるわけです。 もちろん運用が楽になるように設計をすべきですが、必要か、必要でないかを判断するのは、全体を把握していなければ出来ないはずです。 前述の通りデータは横断すると価値が生まれやすいからです。 しかし日本の組織の場合、役職やパワーバランスで決まってしまうケースも多いと感じます。 ここで重要なのは先の「DX推進指標」でもあった通り、「トップのコミットメント」であったり、「ビジョンの共有」です。 ただ皮肉にもDX予算に比較的余裕のある大企業ほど各部門が細切れになっていて、「ビジョンの共有」が難しいと感じます。 いろんな力が働いてはいますが、資金調達をしたベンチャー企業の方がDXは圧倒的に早いわけです。
DXプロジェクトで最初に伝えること
IT業界20年のベテラン選手でもある筆者が、DXプロジェクトで最初に伝えることがあります。
データが価値となり、サービスがスケールするためには下記が必要です。
- 検索できる、発見できる
- マッチングできる、紐づけられる、出会う
- 集計できる
単なるメモでこれは出来ません。あたなはそれで楽かもしれないが、備考に入れておけばOKじゃないんです。 メモじゃ人間が把握しておかなければいけないし、自動化も無理です。AIの導入も難しいでしょう。 逆に様々なところでデータが整備されれば、自動化出来る範囲が広がり、サービスもスケールすることが出来るでしょう。 具体的には〇〇〇が自動化できたり、〇〇〇でLTVを伸ばしたり、、、、
DXプロジェクトでは、一部の人にとっては入力項目が増えてしまったり、業務が増えることがよく発生します。 「ビジョンの共有」のような抽象的な話だと納得してもらいにくいんですが、DXのそもそもの目的である競争力を身に着ける、ということを具体的に説明できると共感が得やすいかなと思います。 よく、DXを進める背景として「中長期的な人材の確保」というのが文脈で出てくるのですが、役員同士で会話する分にはいいのですが、現場では刺さらない言葉だったりするので、相手によって言葉を変える工夫も必要になってきます。
日本のDXは過渡期のはじまり
日本のDXの今は過渡期のはじまりです。 既存のものを変えるということは、どこかしらでストレスが生まれてしまいますから、しんどい時期だとも思います。 ただ、この過渡期が過ぎれば企業のカルチャーも変化していると思いますし、ビジネスのデータ化が進めば、それを活用したアイディアやプロジェクトがどんどん生まれて来ると思います。
最後に
筆者が経験しているプロジェクトというのは、大企業だったり資金調達しているベンチャー企業だったりで、IT投資がしやすい環境に身を置いてきました。 しかし、多くの中小企業では未だワークフローの導入が出来ていない、Office365やGoogle Workspaceといったツールも活用していない、タイムカードも紙、というのが現状かなと思います。 まずは社員ひとりひとりにGoogleもしくはOffice365のアカウントを発行することが、DXの一歩目の回答として最大公約数なのかもしれません。
この記事の著者
株式会社コマース21で大規模通販のエンジニアを経験後、30歳からベンチャー、事業会社を3社経験。 マーケティング部の責任者として新規事業開発、サービス開発、メディア開発、デジタルマーケティング全般を担当。 事業領域は人材、メディア、アパレル、ホームセンター、コンビニ、コスメ等を経験。